マイクロフォーサーズの手引き

E-M1ユーザーのカメラマンがマイクロフォーサーズを中心に書いていきます

マイクロフォーサーズの望遠レンズ選びと像面位相差・空間認識AFの違い




 

ここ最近のマイクロフォーサーズの勢いは写真好きの方にとっては共通の認識になりつつありますが、悩ましいのはとくに望遠レンズの選択です。結論からお伝えすると、マイクロフォーサーズ規格を採用しているオリンパスとパナソニックのカメラ選びは、とくに望遠レンズをメインに使う場合はまず使いたいレンズを絞り込んでからカメラを考えた方がいいケースがあります。

 

純正同士の組み合わせでないとAF性能が制限されるケースも

オリンパスとパナソニックは、それぞれレンズを共有して撮影することができます。ただ、AFはそれぞれ別の技術を活用しており、またメーカーが違うということもあり、AF性能を最大限に発揮させたい場合は純正同士の組み合わせがベストです(純正同士でないと使えない機能もあるので要確認です)。

 

中には、パナソニックのカメラにオリンパスのレンズを使っても普通に動体撮影が行えるという報告もあったりしますが、撮影者一人一人がどのレベルのAF性能を求めているのかにもよると思いますので、特定の組み合わせによる性能は自分自身でテストするのが無難ですね。

 

AF性能を求められる望遠レンズはオリンパスとパナソニックのラインナップを見てレンズを先に選んだ方がいい

さて、レンズのAF性能が求められるのはとくに望遠レンズで動体撮影を行う場合です。なので、オリンパス・パナソニックからどんな望遠レンズが販売されているのかを確認しておきましょう。

 

こちらの画像をご覧下さい。

 

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この画像は、オリンパスとパナソニックの高級望遠レンズのランナップを見やすくしたものです。

 

オリンパスからは40-150mm  F2.8 PROが開発されているので、35mm判換算で80-300mm、テレコンを使うと112-420mmのレンズになります。それ以降は300mm F4 PROを使うことで、概ね100-800mmの焦点距離をカバーすることができます。

 

パナソニックはLEICA DG 100-400mm F4-6.3というレンズがあるので、35mm判換算200-800mmという幅広い焦点距離をズームでカバーすることができる上に、LEICA DG 200mm F2.8という単焦点レンズがあり、テレコンを使うことで焦点距離を変えることもできます。また、35-100mm F2.8というレンズもあるので70-800mmをズーム2本で対応することが可能です。おそらく2018年中には登場すると予想されている50-200mm F2.8-4が揃うと、選択肢はパナソニックの方が豊富となります。

 

オリンパスも近いうちに100-400mmクラスのレンズが登場すると思うので、ラインナップが似てくるのは時間の問題かもしれませんが、通常の望遠域をズームで考えるならオリンパス、超望遠域をズームで考えるならパナソニックという選択肢が現在の選択基準になってくるかと思います。

 

ちなみに、動体撮影の性能は今のところパナソニック G9が一番良さそうですが、オリンパス E-M1 MarkⅡがファームウェアの更新でAF性能が上がってくる可能性もあります。その他、グリップの大きさやカスタマイズ・操作性などは微妙に変わるので、レンズを優先して考えるもののカメラの要素ももちろん要確認です。

 

オリンパスはスタンダードな像面位相差AFを採用

ここで少し、オリンパスとパナソニックのAF方式について少し解説しておきます。

 

現在もですが、ミラーレス一眼は基本的にコントラストAFというピントを実際に動かして被写体のコントラストが高いところを探す方式でピントを合わせます。この方式だと止まっている被写体はしっかり撮れるんですが、動く被写体を追従するのは難しくなります。この課題をどう解決するか?と考えた時に、一番スタンダードな選択肢は像面位相差AFになります。これは、一眼レフの位相差AFと同じようなものをイメージセンサーに埋め込むというものです。

 

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上の画像のように、一眼レフにはファインダーに光を届けるメインミラーの後ろにAFセンサーに光を導くミラーがあります。メインミラーはAFセンサーに届ける場所だけが半透過になっているので、ファインダーに光が届いている状態でもAFセンサーに光が届くようになります。ですが、ミラーレス一眼にはミラー系の部品がないのでAFセンサーを搭載できません。そこで、イメージセンサー内にAFセンサーを組み込むことで一眼レフと同等のAF性能を実現しようとしたのが像面位相差AFです。

 

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出典:http://www.optronics-media.com/news/20150731/33957/

 

像面位相差AFのイメージ上の画像のようなものです。実際には一つ一つの画素は目に見えないぐらい小さいものですので上の画像はあくまでイメージですが、一眼レフの位相差AFと原理自体は似たようなものになります(詳しい解説はこちら)。

 

この像面位相差AFをミラーレス一眼に搭載することで、初代E-M1やその後継機のE-M1 MarkⅡは動体撮影を売りにするカメラとなっています。また、E-M1のコントラストAFも十分な速さではありますが、MarkⅡからは通常の止まっている被写体を撮る時でも像面位相差AFを利用することで、さらに素早いピント合わせを実現しています。

 

像面位相差AFのメリットはAF速度だけでなく一眼レフ以上の精度

位相差AFと像面位相差AFは、原理は同じもののメリットデメリットがあります。一番の違いはその精度です。位相差AFは、フランジバック(レンズを取り付けるマウント部分からイメージセンサーまでの距離)や位相差AFセンサーなどの組み立て精度によって、AF精度が左右されてしまいます。一方、 像面位相差AFはイメージセンサーに組み込まれている為精度の面では安定します(デメリットとしては、暗い場所では像面位相差AFの方が少し不安定になることです)。

 

少し余談ですが、ソニーはこの位相差AFと像面位相差AFの両方を取り入れた一眼レフを開発しています。ソニーはミラー自体を透過性のものにすることで、従来の一眼レフのように位相差AFを作動させながら像面位相差AFも同時に作動させるハイブリッドAFを実現しています。

 

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出典:α99 II 特長 : ハイブリッド位相差検出AFシステム | デジタル一眼カメラα(アルファ) | ソニー

 

この仕組みにより、4200万画素でありながらAF・AE追従で秒間12コマの連写を実現し、さらに従来の一眼レフ以上の精度を実現していますね。

 

ちなみに、像面位相差AFはニコンのミラーレス一眼、富士フイルムのミラーレス一眼にも採用されています。

 

像面位相差AFのデメリットは画素欠陥による画質の影響

一般的に、像面位相差AFの技術でAFの問題は解決できます。初期のものはAF速度や精度もまだまだ一眼レフに追いついていませんでしたが、現在では各社一眼レフに引けを取らないレベルまで性能が高くなっています。

 

ただ、像面位相差AFを組み込んだ場所は画像として取得するデータが抜け落ちてしまう画素欠陥になる為、周りから補完する必要があります。これが像面位相差AFの一番のデメリットです。

 

像面位相差AFの場所を多くすればそれだけAF性能を上げることができますが、そうすると画質に影響してきます。画質を最優先に考え像面位相差AFの場所を少なくすると、今度はAF性能が低くなってしまいます。ですので、像面位相差AFの配置を最適化したり、補完の演算処理能力を高めるなど、各社工夫を凝らしています。

 

ここで触れておきたいのが、キヤノンのデュアルピクセルCMOS AFです。キヤノンのこの技術は少し特殊で、画像のデータを取得する画素と像面位相差AF用の画素が同じになっています(詳しい解説はこちら:インタビュー:キヤノンEOS 70Dの「デュアルピクセルCMOS AF」に迫る - デジカメ Watch Watch)。この技術により、画質に影響させない像面位相差AFを実現いてます。

 

ただ、処理する情報が多くなる為演算処理が増えて画像処理エンジンの負担が大きくなるデメリットがあります。パナソニックはこの特性がとくに4K動画時における画像処理の面で負荷がかかることを想定し、像面位相差AFではない技術でAF性能を高めています。

 

パナソニックはコントラストAFを進化させた空間認識AFを実現

パナソニックも像面位相差AFの特許を出していますが、2018年2月現在では像面位相差AFを採用しているカメラはありません。その代わり、空間認識AFというコントラストAFを進化させた技術で、像面位相差AFと同等以上の性能をもつカメラが開発されています。

 

空間認識AFは、2枚以上のボケ方の違う写真をサンプリングすることで、ピントを移動させる方向と大まかな移動量が瞬時に分かるという技術です(参照:インタビュー:LUMIX GH4の「空間認識AF」は何が凄い? - デジカメ Watch Watch)。位相差AF・像面位相差AFとはまた少し違った仕組みですが、最新のG9は像面位相差AFを搭載しているE-M1 MarkⅡ以上のAF性能という声も聞きます。条件次第でも変わるようですが、通常の使用ではマイクロフォーサーズで一番のAF性能かもしれません。

 

空間認識AFのメリットは画素欠陥が無く演算処理の負荷も最小限になること

パナソニックはミラーレス一眼に力を入れる前から動画に強いメーカーでした。その為、ミラーレス一眼を開発する時も常に動画を意識して開発していますが、4K動画のことを考えると画素欠陥は基本的に許されないというのがパナソニックの考え方です。

 

また、先ほども触れた通り、キヤノンのように全画素を画像用と像面位相差AF用を兼ねる方式にしてしまうと、画像処理に負担がかかる為4K動画などを視野に入れるパナソニックの場合は採用しづらくなります(参照:インタビュー:LUMIX GH4の「空間認識AF」は何が凄い? - デジカメ Watch Watch)。

 

そこで、画素欠陥もなく演算処理も大きくならない空間認識AFという技術が磨かれてきました。

 

像面位相差AFも空間認識AFもレンズデータが必要になる為、カメラとレンズのAF性能が最大限発揮できるのは純正同士の組み合わせになる

ここで最初の話に戻りますが、オリンパスとパナソニックはメーカーも違えば活用している技術も違います。オリンパスの像面位相差AFにはレンズの結像面分布データとフォーカスシフトデータが必要になり、パナソニックの空間認識AFは専用のレンズデータが必要になります。

 

つまり、マイクロフォーサーズという同じ規格を採用しレンズが共有できるとは言え、他社のレンズデータまで共有しているわけではない為、AF性能を発揮させようと考えた場合はどうしても純正同士の組み合わせになってきます。

 

この辺りは今後どうなるかは分かりません。全て共有してくれた方がユーザーとしては嬉しいですが、互い切磋琢磨できるベストな距離感でいてほしいのもまた本音ですね。