マイクロフォーサーズの手引き

E-M1ユーザーのカメラマンがマイクロフォーサーズを中心に書いていきます

画質もボケもAFも、弱点を技術で克服するマイクロフォーサーズ




 

マイクロフォーサーズ規格のカメラを開発・販売しているパナソニックとオリンパスですが、ここ最近はマイクロフォーサーズの弱点を技術でカバーするようなカメラ・レンズを発表しているのが印象的です。今回は、両者から発表された気になる機材・技術を解説したいと思います。

 

数秒間手持ちで撮れるE-M1 MarkⅡの手振れ補正

E-M1 MarkⅡで皆が驚いたのは、数秒間手持ちで撮れる手ぶれ補正能力です。ボディ単体でも、広角であれば1秒ぐらいはいける。12-100mm PROと組み合わせれば5秒ぐらいはいける。体を建物に固定したり、膝を一脚代わりにすればもっと長時間のシャッタースピードでも撮っている方がいらっしゃいます。

 

今までの常識では、1秒以上を手持ちで撮れる時点で「ありえない」と言われるようなものなので、手振れ補正の効果は個人差があるとは言え数秒間手持ちで撮れるのは誰もが驚きました。手持ちで数秒いけるとなると、静物対象ならフルサイズと比較しても画質面で引けをとりません。フルサイズならもっとシャッタースピードを速くしないといけないので、まさに弱点を技術でカバーする良い例です。

 

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ニコンD500と肩を並べかける画質

EE-M1 MarkⅡは、初代E-M1から改善された画質にも注目を浴びました。劇的な改善とまではいかないものの、DxomarkのスコアではニコンのD500と高感度性能と色再現で肩を並べています。ダイナミックレンジだけは若干遅れをとっていますが、マイクロフォーサーズがニコンのAPS-Cのカメラを肩を並べかけてることには多くの人が驚きました。とくにこの頃のマイクロフォーサーズはイメージセンサーが大きく進化せず、どの機種も似たり寄ったりの性能だった為、マイクロフォーサーズユーザーはとくに喜ぶ方が多かったのが印象的です。

 

ただ、どのようにして画質向上が図られたのかは正確な情報がありません。メーカーHPにもイメージセンサーと画像処理エンジンを一新という文言しかないので、技術的なことはメーカー内部の人間にしか分からないかもしれませんね。

 

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AF性能を大幅な性能アップ

AF性能も見逃せません。それも、地道な改善というよりは大きく改善されました。E-M1も設定を最適化すればある程度動体撮影もこなせます。しかし、E-M1 MarkⅡの性能は間違いなく1段アップしています。

 

2016年末と言えば、正直なところ本格的な動体撮影をミラーレスでやるのは厳しいという認識が一般的でした。しかし、E-M1 MarkⅡの登場により、機材をミラーレス一眼に変える方が一気に増えたと言っても過言ではありません。もちろん、シチュエーションによっては一眼レフがいいというケースもありますが、E-M1 MarkⅡの登場によりミラーレスが活躍できるシーンは間違いなく増えました。

 

コントラストAFで動体追尾をしてしまうパナソニックの空間認識AF

あまり騒がれることがない印象がありますが、パナソニックの空間認識AFの性能も見逃せません。各社、ミラーレス一眼でも動体追尾ができるよう像面位相差AFの技術を開発している一方で、パナソニックは動体追尾に向かないと言われ続けてきたコントラストAFだけで動体追尾を行います。

 

パナソニックの空間認識AFをざっくり説明すると、ピント位置が異なる画像を2枚以上サンプリングし、そのボケ方の違いを分析して手前にボケているのか奥にボケているのか、どの程度ボケているのかが分かるようになり、シャッター半押しをすると一瞬でピントが合うという仕組みです。とくに、最新のGH5やG9ではかなり実用的になっているようですね。この技術は、1990年に入る頃から盛んに研究・発表がされていたようですが、CPUの処理能力が向上したことで複雑な演算も瞬時にできるようになったことから、2014年4月に登場したGH4で初めて搭載されました。

 

パナソニックがコントラストAFだけに拘る理由は動画です。像面位相差AFは、どうしても画素欠陥がおきるので補間処理を行わなければいけず、画質面の影響を避けられません。4K動画ではエリア内全ての画素を使うので、画素欠陥は基本的に許されないというのがパナソニックの考え方のようです(参照:インタビュー:LUMIX GH4の「空間認識AF」は何が凄い? - デジカメ Watch Watch

 

規格上ボケにくいという特徴を光学設計技術でカバーした45mm F1.2 PRO

さて、このレンズが注目を集める理由はそのボケ味です。先日の記事では、オリンパスのPROレンズの中でもズームと単焦点レンズでは設計のコンセプトが違うと解説しました。その中でも紹介していますが、メーカー曰く顕微鏡開発で培った計測技術により美しく滲むボケを実現し、同時に解像度も両立したとのこと。下記はメーカーサイトから引用です。

 

F1.2大口径単焦点シリーズの設計思想

ポートレート撮影に活用されることの多いF1.2の大口径単焦点レンズ。大口径単焦点レンズならではのボケの大きさだけでなく、ボケの質感にまでこだわった描写性能であれば、被写体をより印象的に浮かび上がらせることができる…その想いで追求したのが、「ボケの質」。

 

そして、生み出されたのが「美しくにじむボケ」です。「美しくにじむボケ」とは…ピントがあった箇所からアウトフォーカス面にかけて、にじむように溶けて、人物などの主要被写体に、より一層の立体感を感じさせるボケのことをオリンパスは「美しくにじむボケ」と名付けました。

 

オリンパスのF1.2大口径単焦点シリーズは、この「美しくにじむボケ」を創りだしながら、高い解像力との両立を実現し、これまでにない新たな価値を提供いたします。

出典:M.ZUIKO PRO F1.2 Prime Lenses“ボケを極める”F1.2大口径単焦点シリーズ | デジタル一眼カメラ | オリンパス

 

この美しく滲むボケは、25mm F1.2 PROと25mm F0.95を比較することで実感しました。

 

 

 

こちらが実際に比較・解説をした記事ですが、F0.95に対してF1.2は半段分のボケにくいにも関わらず、一部ではF0.95よりもボケの中に被写体が溶け込んでいます。

 

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大きな違いとまではいかないものの、ボケ味を追求することでF値以上のボケ感を実現しているのはオリンパスの光学設計技術によるものです。

 

もう一つ、気になる作例をご紹介します。その画像は、写真家の田中氏が公開されている記事内で紹介されていました。それが45mm F1.2 PROと他社のF1.2のレンズです。

 

 

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出典:Photo of the Day 滲みのあるぼけ、滲みのないぼけ

 

これは、左が某メーカーの某レンズ。右が45mm F1.2 PRO。イメージセンサーのサイズは異なるが、どちらも同じ画角、ピント位置も同じ、絞り値も同じ。イメージセンサーが異なり画角が同じで絞り値が同じとなると、考えられるのは富士フイルムの56mm F1.2です。

 

富士フイルムの56mm F1.2はAPS-C用のレンズなので、この時点で2/3段富士フイルムの方がボケやすいというハンデがありますが、上記の比較を見てみるとそのハンデを飛び越えてオリンパスの45mm F1.2の方がボケているように見えます。

 

注目してほしいのが、花の部分の被写体深度です。よく見ると、右の方が手前と奥によりピントが合っているのが分かります。つまり、イメージセンサーの差である2/3段は花の部分では確認ができるのにボケは右の方がいいということは、ボケ味をよくすることで実際のボケ感を1段増しにしているということです。

 

比較対象が富士フイルムの56mm F1.2であることが前提での見解ですが、非常に興味深い比較です。

 

GH5sの動画はフルサイズ並の高感度性能?静止画でもE-M1 MarkⅡと同等以上に

つい昨日発表のあったパナソニックのGH5s。大きな特徴は、画質向上を目的に開発されていることです。ポイントは、画素数を約1000万画素に抑え、同社のシネマカメラの技術であるデュアルネイティブISOテクノロジーが搭載されていること。今まで高画素化されてきたマイクロフォーサーズですが、今回のGH5sでは1000万画素に抑えることで一つ一つの画素がGH5比で1.96倍にアップしています(参照:⾼画質|DC-GH5S|デジタルカメラ LUMIX(ルミックス)| Panasonic)。

 

さらに、デュアルネイティブISO設定により、環境に応じてベース感度を自動で切り替えることでさらなる高感度性能を実現しています。一般的なカメラはベース感度は常に同じなので高感度時にノイズが発生しやすくなりますが、GH5sは高感度時には専用の読み出し回路によりよりクリーンが画質になるということです。

 

とくに動画の画質が1段とよくなっているそうです。と言っても正直動画のことはよく分からないので、ファーストインプレッションがまとめられている下記の記事を参考にしてみて下さい。

 

LUMIX GH5S インプレッション記事まとめページ

 

静止画の画質も改善されている

さて、僕は動画を全く撮らないので、気になるのは静止画の画質。早速DPREVIEWでサンプルが公開されていたので、マイクロフォーサーズの代表機種と比較してみました。以下は全て800万画素程度に揃えての比較です。

 

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出典:Studio shot comparison: Digital Photography Review

 

まず、GH5から改善されているのは明らかです。E-M1 MarkⅡと比較してみると、ほぼ同程度に見えますね。G9と比べると、少しGH5sの方がいいような?さらにISOを25600まで上げると4機種の中でもGH5sが一番良くなります。

 

ちなみに、オリンパスのカメラよりもパナソニックのカメラの方が低感度時のシャドウノイズは綺麗です。E-M1 MarkⅡとGH5を比較してもその差ははっきり見て取れるので、高感度で同程度なら総合的に見てGH5sがマイクロフォーサーズで一番高画質となるかと思います。

 

まだまだレビューも少ないのではっきりとは言えませんが、E-M1 MarkⅡと同等以上となると、他社製のAPS-Cサイズのカメラと肩を並べるかもしれませんね。

 

今回のGH5sの画質向上のポイントは、低画素とデュアルネイティブISO設定です。これはパナソニックのシネマカメラで培った技術なので、動画を追求してきたパナソニックならではですね。

 

着地点は似ていてもアプローチが違う

E-M1 MarkⅡもGH5sも、それぞれにアプローチは違いますがさらなる高画質・高速AFを実現しています。オリンパスは写真を、パナソニックは動画を意識しており、対象としている市場が少し違うということもありますが、どちらも一昔前のマイクロフォーサーズ機種に比べると大きく進化しているが分かります。

 

とくに、オリンパスは像面位相差AFで。パナソニックは像面位相差AFではなくコントラストAFの技術でAF性能をアップさせていますが、アプローチもその理由も全く違うのが面白いです。

 

 

ちなみに、レンズに関しては長年顕微鏡で光学設計を行ってきたオリンパスの技術が目立っているかと思いますが、それを支えているのが自社で開発・生産しているレンズの硝材です。この記事では触れていない17mm F1.2 PROに使われているレンズの中には、大偏肉両面非球面(DSA)レンズをEDガラスで作ったDSA-EDレンズが使われていますが、これもオリンパスの独自技術の結晶と言えるものです。オリンパスはどのレンズも良いものが多いですが、他社では使われないような硝材を使って設計できるのがオリンパスの強みですね。