マイクロフォーサーズの手引き

E-M1ユーザーのカメラマンがマイクロフォーサーズを中心に書いていきます

なぜキヤノンの手ぶれ補正はレンズ内に採用されるのか?




 

一眼カメラの手ぶれ補正は、カメラのボディ内で採用されるかレンズ内に採用されるかの2つのパターンに分かれていました。しかし、最近ではカメラ内にもレンズ内にも手ぶれ補正機能を採用し、両方で手ぶれを軽減するというメーカーも出てきており、

 

  • ソニー
  • オリンパス
  • パナソニック

 

この3つのメーカーは、両方に手ぶれ補正を採用するようになっています。オリンパスは元々ボディ内に手ぶれ補正を採用していましたが、少し前からレンズ内にも採用されるようになりました。パナソニックは逆で、元々レンズ内に採用されていましたが、最近はボディ内の手ぶれ補正も採用されています。ソニーはAマウントのカメラには元々ボディ内に採用されており、Eマウントは先にレンズに手ぶれ補正を搭載し2014年ぐらいからボディ内手ぶれ補正が採用されたカメラが発売されています。

 

カメラ業界全体、とくにこの3社を見ると、手ぶれ補正はカメラ内にもレンズ内にも採用するのが理想という方向性になっているのが分かるでしょう。とくにオリンパスはボディ内・レンズ内の手ぶれ補正システムを組み合わせることで、最大6.5段分の手ぶれ補正を実現しています。最新のE-M1 MarkⅡなら、ボディ単体でも約1秒程度のシャッター速度を手持ちで行え、一昔前からすれば三脚が必要だった撮影が手持ちで行えるという明らかに別次元の性能になっています。

 

さて、そんな中でも一眼カメラ業界でトップに君臨するキヤノンは、未だに手ぶれ補正はレンズ内に採用しています。そこで今回は、僕の推測である部分もありますが、なぜキヤノンはボディ内よりもレンズ内手ぶれ補正を優先させて開発してきたのか?というテーマで解説してみたいと思います。

 

手ぶれ補正がボディ側とレンズ側で分かれた理由は市場のニーズの差

 

この記事は先日書いたものです。内容としては、E-M1のC-AFの精度は手ぶれ補正をオフにする方が精度が良くなるというもの。その理由として、画像処理エンジンが手ぶれ補正とC-AFを両立するだけの性能がないことと、像面位相差AFの密度が低いせいで手ぶれ補正中に被写体を一瞬見失うということでした。

 

E-M1 MarkⅡではどちらの要素も解決しており、手ぶれ補正のオンオフで精度の差を実感することはないというメーカーの回答だったのでMarkⅡではこの現象は見られないと思います。

 

この画像処理エンジンは、カメラ内で様々な仕事があります。RAWデータからJPEG画像を書き出したり、その画像にノイズリダクションを施したり、画像の明暗差を調整したり。そして先日の記事のように、ボディ内手ぶれ補正やAFの演算も行います。画像処理エンジンの仕事内容は各社大体同じですが、各社フラッグシップのカメラには画像処理エンジンが2つ搭載されていたり、特定の機能専用のエンジンを搭載していることもあります。フラッグシップとなると様々なことを一瞬で高精度に完結させないといけない為、それだけ高い演算能力も求められるということです。

 

そして、この画像処理エンジンにどんな仕事をさせるのかは、各メーカーを支持する市場のニーズの差が大きく影響していました。

 

キヤノンが市場から求められていたものとは? 

その昔、まだAFの技術が確立される前はキヤノンよりもニコンの方がプロに支持されている時代がありましたが、AF性能が実用化された辺りからキヤノンの独壇場の時代が始まります。また、ニコンは作れば売れる時代が長かった為か宣伝に力を入れない傾向にありましたが、それとは逆にキヤノンは宣伝に力を入れていました。マーケティングも昔から上手かったので、その姿勢の差がその後のシェア率に大きく影響しているのは間違いないでしょう。

 

プロに認められる高速・高精度なAF機能の開発に始まり、発色の良さ、いち早くフルサイズのデジタル一眼レフの開発など、プロの現場で実用的となるデジタル一眼レフの開発もニコンよりも抜きん出ていました(現在ではプロの現場でもニコンが使われることも多くなりました)。

 

さて、そんなキヤノンの一番のセールスポイントは伝統のAF性能です。被写体が動いていても、高速且つ高精度に追従できる機能は、多くのプロカメラマンからも支持されています。このセールスポイントに注目すると、手振れ補正はボディ内の方が良くなる見通しがあったにも関わらずレンズ内手振れ補正をずっと採用し続けてきた理由が推測できます。

 

2007年、オリンパスはE-510というデジタル一眼レフでボディ内手振れ補正を採用していますが、このカメラの開発者インタビューではレンズ内手振れ補正よりもボディ内手振れ補正の方が画質的にも機能的にも優れたものになること、そして実際に現段階において他社のレンズ内手振れ補正と比べても同等以上であると断言しています。10年後となる現在も、手振れ補正はレンズ内・ボディ内問わずオリンパスのE-M1 MarkⅡが業界でもトップクラスであることに異論を唱える人はほとんどいないでしょう。

 

ただ、キヤノンが一眼レフ用のレンズで世界で初めて手振れ補正システムをレンズ内に組み込んだのは1995年です。手振れ補正の研究を行うにあたって、レンズ内に採用するかボディ側に採用するかという選択肢は十分にあったはずですが、なぜ現在までレンズ内補正を採用し続けたのか?

 

レンズ側に採用される理由①:画像処理エンジンの最優先の仕事は被写体追従の演算

ここで振り返って頂きたいのが、先ほど紹介したこの記事です。

 

 

E-M1は2013年末に発売されたカメラですが、E-M1の場合手振れ補正をオフにした方が被写体の追従性は良くなります。これは、手振れ補正の演算をしないことで画像処理エンジンが被写体追従に専念できるというのが大きな理由です。

 

そして、これはキヤノンでも同じだったはずです。画像処理エンジンは他にもいろいろやることがたくさんあります。そこに手振れ補正の演算も加われば、被写体追従の演算性能が低下してしまう。キヤノンは一昔前まで高精細に撮れるフルサイズの1Ds系と、スポーツ写真向けの1D系に別れていましたが、スポーツ写真向けの1D系は被写体を追従しながら高速連写を行うことを優先させた為、1Dsに比べて画素数を落としていたぐらいです。

 

キヤノンのAF性能には定評がありますが、性能が良いだけに演算能力も他社以上になるはずです。そして、その性能を維持しようとすると、手振れ補正の演算はレンズ内で完結させる方が理にかなっていたのでしょう。

 

レンズ側に採用される理由②:一眼レフの光学ファインダーではレンズ内の採用が妥当

一般的に言われることですが、光学ファインダーの一眼レフで撮影前にファインダー像を安定させるには、レンズ内に手振れ補正機能を組み込む方がいいです。ボディ内の手振れ補正にしてしまうと、ファインダー像では効果を感じることはできません。その為、どちらに採用するかと考えた場合はまずレンズ内の採用が優先されたのだと思います。

 

ボディ内手振れ補正を採用しているメーカーの特徴を振り返ると

ボディ内手振れ補正を採用しているメーカーは、

 

  • ソニー
  • ペンタックス
  • オリンパス
  • パナソニック

 

この4つのメーカーになります。このメーカーの特徴は、キヤノンやニコンとは違い被写体の追従性は良くないメーカーでした。つまり、被写体追従が苦手だったからこそ、手振れ補正の演算に集中できる条件が揃っていたとも考えられます。また、ペンタックス以外は電子ファインダーを採用したカメラを開発している為、ボディ内手振れ補正であってもファインダー像が安定するという特徴も、ボディ内手振れ補正の採用をスムーズにさせたはずです。

 

現在ではその手振れ補正をさらに進化させ、超高精細画像を生成したり、天体追尾撮影を可能にしたり、レンズ側の手振れ補正を両立させることでさらなる安定した手振れ補正を可能にしたりと、レンズ内手振れ補正単体では不可能な機能が生み出されています。

 

ボディ内手振れ補正と被写体の追従性を両立させたカメラはつい最近の話

そして時代が流れ、ボディ内手振れ補正を採用しながらも被写体の追従を可能にしたカメラが登場します。現在、ボディ内手振れ補正と被写体追従性能を謳っていて、且つ実用的になっているカメラは主に4機種でしょうか。

 

  • SONY α9
  • SONY α99Ⅱ
  • SONY α6500
  • オリンパスのE-M1 MarkⅡ

 

これらのカメラは本当にここ最近発売になったもので、今までのカメラでボディ内手振れ補正と被写体の追従性を最大限に発揮しながら両立できる一眼カメラは存在しませんでした。 ですが、演算処理能力や像面位相差AFの性能も上がってきて、現在ではかなり実用的なカメラが揃いつつあります。

 

出発点は違えど最終的にはボディとレンズ両方で手振れ補正を

レンズ内手振れ補正を採用し続けてきたキヤノンと、ボディ内手振れ補正を採用してきたメーカーを見比べてみると、市場のニーズの差の違いがよく分かると思います。ボディ内手振れ補正を採用したメーカーは、被写体の追従性が苦手だった故にボディ内の採用がスムーズに実現させてから、被写体の追従性をあげてきました。キヤノンは逆です。

 

キヤノンは一眼レフのAF性能の向上と平行して、デュアルピクセルCOMS AFという画素欠陥なしにイメージセンサー面で高いAF性能を発揮する技術を開発してきました。この技術は現在の一眼レフにもミラーレス一眼にも採用されており、ミラーレス一眼であるM5も被写体の追従性はかなり高いです。すでにミラーレス一眼での基本性能の土台は技術的に仕上がっており、2018年にはEFマウントを採用したミラーレス一眼が登場するという噂もよく耳にします。今後の主流はミラーレス一眼になっていくことを考えると、既存のシステムを活かせるEFマウントのミラーレス化は想像に難しくないです。

 

キヤノンの専売特許はAF性能ですが、ミラーレス一眼であっても画素欠陥なく被写体の追従性を高める技術を開発してきたのは、やはりキヤノンならではです。そして、ミラーレス一眼であってもAF性能を高める土台がある程度でき、EFマウントのカメラもミラーレス化されていくと、いよいよボディ内手振れ補正も開発されていくと思います。

 

現在では、各社ボディ内手振れ補正と被写体の追従性を両立できる演算性能を実現しています。他社にできてキヤノンにできないことはないと思うので、遅かれ早かれボディ内手振れ補正が開発され、レンズ内手振れ補正と両方で手振れを補正する時代がくるはずです。

 

実際に、ボディ内手振れ補正のニーズはキヤノンも把握しているようで、CP+2017のインタビューでは

 

ボディ内手振れ補正+レンズ内手振れ補正のメリットは理解しているので、ボディ内手振れ補正システムを小型軽量化する為の技術開発を進めることを検討している。

 

というコメントをされています。キヤノンとしてはボディ内手振れ補正よりもミラーレス一眼でのAF性能の向上の方が優先的だったと思いますが、それもある程度目処が立ってきた今はボディ内手振れ補正の開発も進んでいくことでしょう。

 

キヤノンは先にAF性能を。その他のメーカーは先にボディ内手振れ補正を。それぞれ市場のニーズにより出発点が違いますが、最終的にはどのメーカーもボディ内+レンズ内で手振れ補正をする時代になってくるでしょうね。