マイクロフォーサーズの手引き

E-M1ユーザーのカメラマンがマイクロフォーサーズを中心に書いていきます

意外と知らないオリンパスとパナソニックの思想と技術《2018.2.22_更新》




 

このブログではマイクロフォーサーズの話題を多く記事にしていますが、今回は改めてマイクロフォーサーズの解説を。

 

前置き

マイクロフォーサーズとは、オリンパスとパナソニックが策定したフォーサーズの拡張規格です。2008年8月に発表され、その後両社はカメラもレンズもラインナップを強化し、今ではプロもアマチュアも多くの人がマイクロフォーサーズのカメラを使っています。

 

また、マイクロフォーサーズの特徴の1つは賛同メーカーが多いことです。ウィキペディアをご覧頂くと、多くのメーカーが賛同しマイクロフォーサーズ用のレンズを発表しているのが分かります。僕も、オリンパスやパナソニックのレンズをはじめLAOWAといった他のメーカー・ブランドのレンズを使っています。

 

オリンパスとパナソニックのカメラはどう違うのか?

さて、マイクロフォーサーズの代表的なカメラはオリンパスとパナソニックになりますが、同じマイクロフォーサーズ規格なので、オリンパスのカメラにパナソニックのレンズをつけることが可能です。もちろん逆も可能なので。好きな組み合わせで使うことができます。ただ、オリンパスもパナソニックも同じ規格を採用していながらも、元々別々の事業を行ってきた経緯があり、カメラにもその特徴が現れています。

 

ビデオカメラから始まりライカの思想を取り入れたパナソニック

パナソニックは、まだフィルムカメラが市場で支持されつつもデジタルカメラが普及しだした頃に、ビデオカメラで培ったノウハウでデジタルカメラを開発します。ですが、全く売れず苦い経験をし、その時にビデオカメラのノウハウだけではデジタルカメラ市場では通用しないことを痛感したそうです。そして、ビデオカメラ分野で提携していたライカとデジタルカメラ分野でも提携し、現在のルミックスブランドが生まれます。

 

と、簡単にまとめるとこうなるのですが、パナソニックがビデオカメラだけのノウハウではダメだということを痛感してからルミックスブランドが生まれるまでの約4年間(1997~2001)、パナソニックからはルミックスの前身であるCOOLSHOTブランドのカメラが発売されるも、パナソニック本体はこのカメラに関わっていません。

 

ではこの4年間何をしていたかと言うと、2001年に初めて発売されるルミックスブランドのDMC-F7の開発に専念しています。生半可では生き残れないことを悟ったのか、この4年間ひたすらカメラメーカーとして参入する為の開発に専念されたそうです(参照:インタビュー:【IFA2009】パナソニック「DMC-GF1」とLUMIXブランド戦略を訊く - デジカメ Watch Watch)。

 

そして、最初はコンパクトカメラだけだったルミックスブランドも、フォーサーズ規格に賛同し一眼カメラが生まれ、その後マイクロフォーサーズへと発展し現在に至ります。

 

動画機能を活かした6Kフォト

パナソニックが動画に力を入れるのは、元々がビデオカメラに力を入れていたからです。そして、そのノウハウ・思想がミラーレス一眼にも反映され、ミラーレス一眼で動画を撮るならパナソニックと言われるまでになりました。

 

そして、この動画性能を活かしたのが6Kフォト・4Kフォトです(6Kは最新のGH5やG9のみ。その他の機種は4Kのみ)。これは、1800万画素で秒間30コマ、800万画素で秒間60コマで撮影できる機能です。従来のカメラでは、4Kフォトでの連写時の動く被写体追従は苦手でしたが、最新のGH5からは6K・4Kフォトの連写であっても余程動きの激しい被写体でなければ追従するようになりました。正直鑑賞距離なら600万画素あれば十分だったりするので、800万画素で撮影する4Kでも十分です。そういう意味では、秒間60コマで被写体を追従するとなると一眼レフにはマネできないスペックです。

 

下記の記事を見てみると、スポーツカメラマンでないのであればGH5の方がいいのではないかと思ってしまいます。

 

マップカメラ | KASYAPA | 412:目覚ましい進化を遂げた"GH"『Panasonic LUMIX GH5』 | Panasonic

 

 

動体撮影でないなら、GH5以外のカメラに搭載されている4Kフォトでも十分でしょう。この機能があれば、被写体の一瞬を一眼レフよりも高精度で捉えることができます。

 

ライカの思想を取り入れ、ライカブランド及びパナソニック設計のレンズ共に量産品の安定化

パナソニックはビデオカメラの時代からライカと提携しており、デジタルカメラの分野でも提携しています。なので、パナソニックのレンズにはライカブランドのものが多数あります。これらのレンズは、設計・製造はパナソニックが行い、ライカはそのチェック・承認を行うというスンタンスで商品化されていきます。

 

まず、設計段階でライカのチェックが入り、何度も修正点を指摘されて再度設計結果を提出の繰り返しだそうです。そして設計の承認が得られれば、次は製造の承認です。製造段階でも厳しい検査基準が設けられており。それらを全てクリアして初めて商品化されていきます(参照:インタビュー:パナソニックに聞く「LEICA DG NOCTICRON 42.5mm F1.2」のこだわり - デジカメ Watch Watch

)。

 

ライカの基本的な思想としては、設計の段階で高いレベルを実現するのはもちろん、量産品でもその設計の高さを安定して実現できるようにすることです。一本一本の性能がバラバラではなく、どのレンズを手にとっても同じ性能を楽しめるということを非常に重要視されています(参照:ライカレンズの美学:光学責任者が語る“ライカレンズの美学” 高性能でも小型に。キレイなボケ味の理論とは? - デジカメ Watch

)。

 

これは、僕自身も実感しています。パナソニックでライカブランドのレンズを3本使ったことがありますが、そのどれもが片ボケせずに安定した描写性を維持していました。ちなみに、全数検査して出荷しているはずのオリンパスでは、PROレンズを4本使ってきましたがそのうちの2本は片ボケで交換や調整をお願いしています(12-100mmは片ボケで交換。40-150mmは購入後半年で片ボケ現象にて調整)。比較するレンズ数が少なすぎるのでたまたまな可能性が高いですが、個人的にはオリンパスのPROレンズよりもパナソニックのライカブランドのレンズの方が量産品の安心感はありますね。

 

ちなみに、僕は神経質なので機材はかなり丁寧に扱います。鏡筒が伸びるレンズは可能な限り負荷がかからないように細心の注意を払いますし、機材に衝撃が加わらないように撮影時も移動時も徹底しています。

 

このライカブランドのレンズを設計製造するノウハウはどんどんパナソニックにも経験として培われていきますので、ライカブランド以外のレンズでも良いレンズが増えていきます。時間が経てば経つほど、パナソニックのレンズは良いものが揃うようになってきました。 

 

動画にとって像面位相差AFは画素欠陥になる為非作用。代わりにコントラストAFの技術を応用した空間認識AFで像面位相差AF以上の性能を

 

詳しくはこちらの記事で買いていますが、要約すると

 

画素一つ一つがAFセンサーになる像面位相差AFは画素欠陥になるのがデメリット。4Kフォトなどでは基本的に許されない構造な為、採用は厳しい。一方で、常にピントを微妙に前後させたボケ方の違う画像をサンプリングすることで、被写体までの距離と方向を瞬時に判断するという空間認識AFの技術を採用。

 

ということです。原理は違いますが、これは一眼レフの位相差AFと似ている部分がありますね。ちなみに、この技術のおかげでパナソニックのAFは本当に早いです。被写体の追従性もかなり良くなっていて、最新のG9はマイクロフォーサーズで一番の性能ではないかと思います。

 

顕微鏡から始まったオリンパス

オリンパスは元々顕微鏡をはじめとした理化学計器類から始まった企業で、現在では、

 

  • 医療
  • 科学
  • 映像

 

の3つの事業を展開しています。医療分野では、内視鏡のシェア率NO.1で有名です。科学分野では主に顕微鏡。そして映像分野がミラーレス一眼を中心としたカメラ系の事業です。

 

得意な光学技術で特殊硝材をいち早く開発し量産化

元々が顕微鏡といった光学系から始まっているので、光学技術はオリンパスの中核技術です。その為、レンズ設計だけでなくレンズの開発に欠かせない特殊硝材の加工もオリンパスは得意としています。

 

レンズ加工技術としてはおそらく業界屈指で、オリンパスはいち早くレンズ加工システムを自動化し他社を驚かせ、ここ最近話題の大口径両面非球面レンズや非球面EDレンズなどの量産化を最初に実現したメーカーです。

 

非球面EDレンズに関しては、オリンパス以外ではパナソニックとニコンしか採用されていません。ニコンに関しては2015年10月に初めて24-70mm F2.8で採用されましたが、オリンパスは2004年10月発売のZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0ですでにED非球面レンズを採用されいて、カメラ用のレンズでは世界で初めてED非球面レンズが採用されたレンズになります。パナソニックに関しては、フォーサーズ・マイクロフォーサーズ用のレンズを一本一本見ていくと最近登場した100-400mmに初めて採用されたようです。

 

EDレンズは通常のガラスに比べて傷がつきやすく加工が難しいとされています。それを非球面に加工するとなるとさらに難易度が上がるそうです。(おそらく)3社しか採用されておらず、ニコンとパナソニックは最近になってやっと採用されてきたことを考えると、相当技術的にも難しいものだというのが想像できるかと思います。

 

大口径両面非球面レンズは、最近では

 

  • シグマのArt 20mm
  • タムロンの15-30mm F2.8
  • キヤノン16-35mm F4

 

などのレンズで採用されていますが、先ほどのZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0ですでに開発し実用化されています。つまり、オリンパスは他社に比べて10年先駆けてED非球面レンズや大口径両面非球面レンズを量産化しレンズ設計に活かしていました。このことから、オリンパスのレンズ加工技術の高さが分かるかと思います。

 

ただ、オリンパスの7-14mm F4の両面非球面レンズは約54mmですが、シグマの20mmは外形59mmの両面非球面レンズを。タムロンの15-30mm F2.8は57.9mmの両面非球面レンズを量産できる技術を実現しています。ちなみに、キヤノンの16-35mm F4の両面非球面レンズの外形は約50mmです。

 

元々非球面レンズの加工自体が難しいということなので、大きな両面非球面はかなり技術的にも難しいようです。そういう意味では、タムロンやシグマのレンズ加工技術はかなり高いレベルであることが分かるかと思います。 

 

また、オリンパスが世界に先駆けて開発したとされるDSAレンズ(大偏肉両面非球面)にEDガラスを用いた《ED-DSAレンズ》が、17mm F1.2 PROで採用されています。単焦点PROレンズはレンズのボケ味を徹底的に追求したレンズで、この硝材ゆえに高性能なレンズに仕上がっていますが、おそらく両面非球面をEDガラスで作っているのはオリンパスだけではないかと思います(他の製造メーカーがあれば教えて下さい)。

 

ナノオーダーのレンズ加工技術

オリンパスのレンズ加工技術が高いことが分かるのが、ナノオーダーでのレンズ加工です。

 

 

こちらの記事でご紹介されているように、オリンパスでは数ナノという精度でレンズを加工することができます。

 

ナノとは10億分の1です。10億分の1と聞いてもピンときませんが、比較する対象としてソニーの超高度非球面XAレンズがあります。このレンズは、ソニーのGMレンズのキーエレメントとなっており、超高度非球面レンズがなければGMレンズは完成しなかったとまで言っています。

 

この超高度非球面XAレンズの特徴は、従来の非球面レンズに比べて0.01ミクロンの単位で加工できるということ。ミクロンは100万分の1という単位です。ここで思い出してほしいのが、ナノは10億分の1ということ。0.01ミクロンは10ナノとなります。つまり、先ほど触れたオリンパスの数ナノ単位でのレンズ加工技術は、ソニーのGMレンズに使われる超高度非球面XAレンズ以上ということになります。

 

  • 一言に大口径の非球面レンズが作れると言っても、その材質から加工精度を考えれば単純に大きさで比較できるものではない。

 

ソニーのGMレンズの解説を見ているとそんな声も聞こえてきそうですが、オリンパスはその上をいくという印象です。ちなみに、オリンパスはナノ精度の加工を安定供給できる点も特徴かと思います。安定して高精度に加工できるということは、それだけ無駄なコストかけずに生産できるということ。それは一眼カメラ用レンズ一本一本の値段にも反映されていくはずです。

 

オリンパスのレンズが良いレンズになのに他社に比べてそこまで高価でない理由は、単純にイメージセンサーの小ささによるレンズ自体の小型化によることも大きいかもしれませんが、レンズ一枚一枚を自社生産で安定供給できる点も大きいのではないかと思います。フォーサーズ時代のレンズは正直他社と変わらないぐらい値段が高かったと思いますが、マイクロフォーサーズになってからそこまで高価にならなくなったことを考えると、レンズ加工技術の安定化がより高いレベルになったのかもしれませんね。

 

フィルム時代からの小型軽量化のDNA

オリンパスはフィルム時代、OM-1をはじめとしたOMシステムを開発していました。OMシステムの特徴としては、小型軽量を追求していた点です。カメラもレンズも、小型軽量を意識されていたのは当時のレンズの最大径と全長を見てみると分かります。ちなみに、レンズは小型軽量で比較的安価なのに写りが良いと評判でした。

 

その思想は現代にも引き継がれていて、とくにPROレンズの開発者インタビューを見てみると、小型軽量化への拘りが見えてきます。

 

 

先ほど触れた、他社より優れた特殊硝材をナノ精度で安定して加工できる技術は、フィルムカメラ時代からの小型軽量化の思想からきているのではないかと思います。オリンパスには、先程紹介した大口径両面非球面レンズやED非球面レンズの他にも、レンズ中央部と周辺部の厚さの非が極めて大きい(曲率差の大きい)大偏肉両面非球面DSAレンズなどがあります。

 

オリンパスが世界に先駆けて量産化を成功させたDSAレンズは、超広角レンズ、標準ズーム、高倍率ズームなど、広角の焦点距離で撮るレンズを中心に採用されていますが、このDSAレンズの存在が小型軽量化と高性能化を同時に実現しています。

 

とくに、M.ZUIKO 9-18mmは、DSAレンズを2枚使うことで卵以下のサイズを実現し、光学性能も犠牲にしていないのが特徴です。また、7-14mm PROにも採用され、12-100mm PROにも採用されています。どちらのレンズもとても評価の良いレンズで、両方絞り解放からとても解像度が高く、それでいて携帯性はかなり良いのが特徴です。僕も、この2本のレンズは仕事で一番使うレンズです。

 

このDSAレンズや、先程紹介したEDレンズと非球面レンズの両方の特性を持ち合わせるED非球面レンズなどは、小型化に大きく貢献します。DSAレンズもED非球面レンズもオリンパスがいち早く開発し量産化できた理由は、これらの技術が小型軽量思想のオリンパスにとって中核技術になることを強く意識していたからではないかと思います。

 

後発だからこそ次世代規格であるミラーレス一眼にいち早く取り組めた

もちろん、どれだけ動画の技術が凄くても、光学技術が優れていても、それが売れるカメラ・レンズを作れることに直結するとは限りません。実際、フォーサーズ時代のオリンパスはレンズは良くてもボディ側の問題があったり、マーケティングが上手くいかずであまり売れませんでした。パナソニックも動画のノウハウがあっても写真撮影用のカメラは売れませんでした。

 

しかし、逆にそれがミラーレス一眼という新しい時代の規格にいち早く取り組むことができたとも言えます。マイクロフォーサーズは、フォーサーズシステムの拡張規格です。フォーサズ規格の一眼レフをミラーレス構造に最適化したことで、

 

  • カメラもレンズの小型軽量化
  • レンズ設計の自由度の向上
  • 良い意味で強制的な「動画撮影に必要なライブビュー撮影機能」の向上

 

というメリットを得ることができました。小型軽量化はオリンパスにとって最大のメリット。そして動画撮影ではライブビュー撮影に限定されますが、そのライブビュー撮影のノウハウにいちはやく取り組み向上させることができるのはパナソニックにとって大きなメリットです。オリンパスにとってもパナソニックにとっても、自社の思想・技術をより活かせる規格を追求した結果としてマイクロフォーサーズが生まれたのでしょう。

 

最後に

さて、ここまでマイクロフォーサーズについて、パナソニック・オリンパスの思想や技術について解説しましたが、如何でしょうか。今回の記事を書くにあたって、僕も相当調べました。気になることを書き出したらどんどん気になることが増えていって、詳細を調べているうちに数日間かかり文字数も7600文字を超えています。

 

僕も細かなところまでは知らないこともあったので、写真が趣味の方でも知らないことばかりだったのではないかと思います。もちろん、各社それぞれの強みや技術があると思うので、機会があればオリンパスやパナソニック以外のメーカーについても詳しく調べてみたいですね。

 

ちなみに、どこか間違いがあれば指摘をお願いします(^^;)